なぜ勉強をしないといけないのか?⑦
(前回の続きから)
低学歴な彼が教えてくれた幸せのヒント
それで、罵倒されたり嘘をつかれたりしながら、結局親の望む大学に合格し、入学することになりました。
私は、高学歴がいいものなのか、幸せなのか、この時点でもよくわかってなかったけど、とりあえず、1番望んでいた大学ではなかったにせよ、努力はしてきたので、「努力が報われたこと」について、すごく嬉しかったですね。
親はやはり浮かれてましたよ。
なんかね…威張ったり、人を見下したり、バカにするのが大好きなんですよ。でも、自分は努力をするのが辛くて面倒臭くて嫌だから、「虎の威を借りる狐」のように、子どもの学歴や習い事の成績なんかで威張り散らすしかないのです。
ある日、車の中で母親に「パパってさ、『鼻高々』って好きじゃない?私が××大学に入って、職場で『おめでとうございます!いや~すごいですね!さすがですね!』って言われるための道具として、私のこと利用してない?」と聞きました。
「そうだね!」と答えが返ってきました。
あ、私を傷つけないように、しどろもどろになったり、オブラートに包もうとかいう気持ちさえないんだ。せめて、そのくらいは欲しかったんだけど…と思いましたが、言ったところで無駄なので言いませんでした。
親子関係は最悪でしたが、クラスメイトは優しい人ばかり。部活もそれなりに楽しかったし、授業も面白い。通学時間が長く、部活動は夜遅くまでやっていて、睡眠不足で体が辛く、毎日クマをつくっていましたが、トータルで考えると楽しかったですね。
「幸せ…って何かわからないけど、いじめもないし、平和で楽しいっちゃ楽しいな。これが幸せなの?でも、幸せってもっとすごい感じだと思うんだよな~。」なんて思いながら日々を過ごしていました。
ある時、部活の大会に出場して、他校の彼に声をかけられ、その後付き合うことになりました。
「俺って勉強できなくてさ~」と「人を笑わせるのが得意」をよく言っていた人でしたね。
「勉強教えて」と言われ、教えたこともありますが、「勉強できない」がどういう感じか、よくわからなかったんです。
彼は体力自慢だったので、消防士希望だったのですが、消防士って筆記試験もあるんですよ。問題集の中でわからないものがあると言われ、微分を教えましたが、通じてなさそうでした。
でも、今まで勉強してこなかったのならしょうがない、誰しも苦手な教科はあって当たり前だし、「頑張ればできるよ」「繰り返し問題を解けばできるようになるよ」と言っていました。
それが、想像を絶するレベルだったんです…。
部活の後輩に「先輩、ハローってどうやって書くかわかりますか?」と言われ、「H、e、l、o??」「先輩!それじゃ、『ヘロ』です!」「ぎゃははははは!」って盛り上がっていたり…
彼のお父さんは「こいつ、アルファベットの小文字がaからzまで書けなくて。俺が教えても駄目だったんだよな~(^_^;)」と言っていたり…
一番すごかったのは、「ねえねえ、カタカナの『み』って『ミ』と『彡』どっちだっけ?」と言われたことです。
そりゃね…カタカナが微妙なレベルだったら、微分は無謀だったかもしれないね…って後から思いました。
しかし、ここで、ふと疑問が浮かびます。
学歴コンプレックスを抱えた両親に育てられた私は、「勉強できないと苦労するよ」「不幸になるんだよ」と言われ続けてきたのです。
それがどうでしょう。
彼や彼の周りにいる人たちは、いつもいつもすーっごい笑っていました。
確かに、就職活動では学歴や、筆記試験で求められる学力が有利になることもあるかもしれませんが、彼の学校の卒業生たちだって、スポーツのインストラクターだったり、接客業だったり、そういう分野であれば普通に正社員として働き、家庭を持っていたりするのです。
「勉強ができないと生きていけない」「必ず不幸になる」と聞いていたのに、「あれ?意外と生きていけるみたいだぞ。しかも、彼のほうが、いつも笑顔あふれてて、幸せそうに見えるんだけど…どういうことだ?」って思いました。
パターンとしては、
・高学歴で幸せ
・高学歴で不幸
・低学歴で幸せ
・低学歴で不幸
があるでしょうから、「高学歴=幸せ」は「必ずしも間違い」ではないけれど、「必ずしも正解」でもないんじゃないかな~と思うようになったのです。
大学卒業後に結婚も視野に入れていたので、お互いの実家に行ったりもしていたのですが、彼側の知り合いと会うことも多くありました。(彼のほうは人付き合いが濃い地域でした。)
そうすると、「お前んとこ、彼女の方がすごい給料高くなっちゃうじゃん!」とめちゃくちゃ言われるのです。
(「学歴や給料の高い女を嫁にもらってはいけない」ということではなく、「お前も頑張って、幸せにしてあげるんだよ。」という茶化しだったと思います。)
付き合いたてのころは「こんな俺と付き合ってくれて…」と言っていた彼も、私が気にしないもんだから、自然と言わなくなっていったのですが、とにかく色々な人から何度も何度も言われ、傷ついたようでした。
「みんなが俺のことをバカにする」という悔しさとともに、「俺と一緒にいなければ、natsuちゃんは幸せになれるのに…」という罪悪感も抱えていたみたいです。
それで何度も喧嘩というか、彼が物に当たったり、洗濯物の干し方など、そこまで支障がないことで間違いを指摘して異常なほど怒鳴ったり、暴力を振るうように変わっていってしまいました。
彼が傷ついた様子を見るのも、心が痛みますし、別れ話を何度も持ちだされるんです。お互いは別れたくないはずなのに、こうも周りから言われて、歯車が狂って、喧嘩になって、悲しかった。2人でたくさん泣きました。そして、最終的に別れました。
そして私はこう思ったのです。
「高学歴にさえなれば、絶対に幸せになれるって言ったのに、こんなの全然幸せじゃない!噓つき!」と。
「可愛いお子ちゃまの、喧嘩したりしなかったりの恋愛話でしょ?」って感じかもしれないですが、私にとっては、人生で一番大きな雷に打たれたような、すごくショッキングなことでした。
マンガやドラマである、50代の男性が「これぞ家族のため!!」って思って、辛いことを乗り越えながら頑張ってきて、ある日仕事を終えて夜遅く帰ったら、「出ていきます。」っていう置き手紙があって、妻も子どもも失ってしまった…みたいな。
「え?俺、どこで間違えたの?上司やお客さんに酷いこと言われて耐えたのも、しんどい体に鞭打って早起きして満員電車で押しつぶされてきたのも、全部家族の生活のためだと思ってやってきたのに…。」という絶望のような感じです。
「幸せって一体何だったの?」「私は何のために頑張ってきたの?」「幸せにならないなら、頑張った意味なかったじゃん」…自分の頑張りが無駄に思えたことも、また悲しかった。
こうして私は、「高学歴=幸せ」ではないと確信を持つようになっていったのでした。
(次回へ続く)